強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法¶
強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法(平成二十五年十二月十一日法律第九十五号)
最終改正:平成二七年九月一一日法律第六六号
(最終改正までの未施行法令) | |
平成二十七年九月十一日法律第六十六号 | (未施行) |
前文
第一章 総則(第一条―第七条)
第二章 基本方針等(第八条・第九条)
第三章 国土強靱化基本計画等(第十条―第十四条)
第四章 国土強靱化推進本部(第十五条―第二十五条)
第五章 雑則(第二十六条―第二十八条)
附則
我が国は、地理的及び自然的な特性から、多くの大規模自然災害等による被害を受け、自然の猛威は想像を超える悲惨な結果をもたらしてきた。我々は、東日本大震災の際、改めて自然の猛威の前に立ち尽くすとともに、その猛威からは逃れることができないことを思い知らされた。
我が国においては、二十一世紀前半に南海トラフ沿いで大規模な地震が発生することが懸念されており、加えて、首都直下地震、火山の噴火等による大規模自然災害等が発生するおそれも指摘されている。さらに、地震、火山の噴火等による大規模自然災害等が連続して発生する可能性も想定する必要がある。これらの大規模自然災害等が想定される最大の規模で発生した場合、東日本大震災を超える甚大な被害が発生し、まさに国難ともいえる状況となるおそれがある。我々は、このような自然の猛威から目をそらしてはならず、その猛威に正面から向き合わなければならない。このような大規模自然災害等から国民の生命、身体及び財産を保護し、並びに国民生活及び国民経済を守ることは、国が果たすべき基本的な責任の一つである。
もっとも、様々な災害が多発する我が国において、求められる事前防災及び減災に係る施策には限りがなく、他方、当該施策を実施するための財源は限られている。今すぐにでも発生し得る大規模自然災害等に備えて早急に事前防災及び減災に係る施策を進めるためには、大規模自然災害等に対する脆弱性を評価し、優先順位を定め、事前に的確な施策を実施して大規模自然災害等に強い国土及び地域を作るとともに、自らの生命及び生活を守ることができるよう地域住民の力を向上させることが必要である。また、大規模自然災害等から国及び国民を守るためには、大規模自然災害等の発生から七十二時間を経過するまでの間において、人員、物資、資金等の資源を、優先順位を付けて大規模かつ集中的に投入することができるよう、事前に備えておくことが必要である。このためには、国や地方公共団体だけではなく、地域住民、企業、関係団体等も含めて被災状況等の情報を共有すること、平時から大規模自然災害等に備えておくこと及び新たな技術革新に基づく最先端の技術や装置を活用することが不可欠である。加えて、東日本大震災により甚大な被害を受けた地域の復旧復興に国を挙げて取り組み、災害に強くしなやかな地域社会を再構築することを通じて被災地に希望を与えることも重要である。
さらに、我が国のこのような大規模自然災害等に備える取組を諸外国に発信することにより、国際競争力の向上に資するとともに災害対策の国際的な水準の向上に寄与することも、東日本大震災を経験した我が国が果たすべき使命の一つである。
ここに、強くしなやかな国民生活の実現を図る国土強靱化の取組を推進するため、この法律を制定する。
第一条
この法律は、事前防災及び減災その他迅速な復旧復興並びに国際競争力の向上に資する国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある大規模自然災害等(以下単に「大規模自然災害等」という。)に備えた国土の全域にわたる強靱な国づくり(以下「国土強靱化」という。)の推進に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及び国土強靱化基本計画の策定その他国土強靱化に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、国土強靱化推進本部を設置すること等により、国土強靱化に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって公共の福祉の確保並びに国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
第二条
国土強靱化に関する施策の推進は、東日本大震災(平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。)から得られた教訓を踏まえ、必要な事前防災及び減災その他迅速な復旧復興に資する施策を総合的かつ計画的に実施することが重要であるとともに、国際競争力の向上に資することに鑑み、明確な目標の下に、大規模自然災害等からの国民の生命、身体及び財産の保護並びに大規模自然災害等の国民生活及び国民経済に及ぼす影響の最小化に関連する分野について現状の評価を行うこと等を通じて、当該施策を適切に策定し、これを国の計画に定めること等により、行われなければならない。
第八条
国土強靱化は、次に掲げる基本方針に基づき、推進されるものとする。
一
迅速な避難及び人命の救助に資する体制の確保、女性、高齢者、子ども、障害者等の視点を重視した被災者への支援体制の整備、防災又は減災に関する専門的な知識又は技術を有する人材の育成及び確保、防災教育の推進、災害から得られた教訓及び知識を伝承する活動の推進、地域における防災対策の推進体制の強化等により、大規模自然災害等に際して、人命の保護が最大限に図られること。
二
国家及び社会の重要な機能の代替性の確保、生活必需物資の安定供給の確保等により、大規模自然災害等が発生した場合においても当該機能が致命的な障害を受けず、維持され、我が国の政治、経済及び社会の活動が持続可能なものとなるようにすること。
三
地震による建築物の倒壊等の被害に対する対策の推進、公共施設の老朽化への対応、大規模な地震災害、水害等の大規模自然災害等を防止し、又は軽減する効果が高く、何人も将来にわたって安心して暮らすことのできる安全な地域づくりの推進、大規模自然災害等が発生した場合における社会秩序の維持等により、大規模自然災害等に起因する国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化に資すること。
四
地域間の連携の強化、国土の利用の在り方の見直し等により、大規模自然災害等が発生した場合における当該大規模自然災害等からの迅速な復旧復興に資すること。
五
予測することができない大規模自然災害等が発生し得ることを踏まえ、施設等の整備に関しない施策と施設等の整備に関する施策を組み合わせた国土強靱化を推進するための体制を早急に整備すること。
六
事前防災及び減災のための取組は、自助、共助及び公助が適切に組み合わされることにより行われることを基本としつつ、特に重大性又は緊急性が高い場合には、国が中核的な役割を果たすこと。
七
現在のみならず将来の国民の生命、身体及び財産を保護し、並びに国民生活及び国民経済を守るために実施されるべき施策については、人口の減少等に起因する国民の需要の変化、社会資本の老朽化等を踏まえるとともに、財政資金の効率的な使用による当該施策の持続的な実施に配慮して、その重点化を図ること。
第九条
国土強靱化に関する施策は、次に掲げる方針に従って策定され、及び実施されるものとする。
一
既存の社会資本の有効活用等により、施策の実施に要する費用の縮減を図ること。
二
施設又は設備の効率的かつ効果的な維持管理に資すること。
三
地域の特性に応じて、自然との共生及び環境との調和に配慮すること。
四
民間の資金の積極的な活用を図ること。
五
国土強靱化の推進を図る上で必要な事項を明らかにするため、大規模自然災害等に対する脆弱性の評価(以下「脆弱性評価」という。)を行うこと。
六
人命を保護する観点から、土地の合理的な利用を促進すること。
七
科学的知見に基づく研究開発の推進及びその成果の普及を図ること。
第十条
政府は、国土強靱化に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、地方公共団体の国土強靱化に関する施策の実施に関する主体的な取組を尊重しつつ、前章に定める基本方針等及び国が本来果たすべき役割を踏まえ、国土強靱化に関する施策の推進に関する基本的な計画(以下「国土強靱化基本計画」という。)を、国土強靱化基本計画以外の国土強靱化に係る国の計画等の指針となるべきものとして定めるものとする。
2
国土強靱化基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一
国土強靱化基本計画の対象とする国土強靱化に関する施策の分野
二
国土強靱化に関する施策の策定に係る基本的な指針
三
前二号に掲げるもののほか、国土強靱化に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3
内閣総理大臣は、国土強靱化基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。
4
内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、国土強靱化基本計画を公表しなければならない。
5
政府は、国土強靱化に関する施策の実施状況を踏まえ、必要に応じて、国土強靱化基本計画の見直しを行い、必要な変更を加えるものとする。
6
第三項及び第四項の規定は、国土強靱化基本計画の変更について準用する。
第十三条
都道府県又は市町村は、国土強靱化に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、当該都道府県又は市町村の区域における国土強靱化に関する施策の推進に関する基本的な計画(以下「国土強靱化地域計画」という。)を、国土強靱化地域計画以外の国土強靱化に係る当該都道府県又は市町村の計画等の指針となるべきものとして定めることができる。
第十六条
本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
一
国土強靱化基本計画の案の作成及び実施の推進に関すること。
二
関係行政機関が国土強靱化基本計画に基づいて実施する施策の総合調整に関すること。
三
前二号に掲げるもののほか、国土強靱化に関する施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関すること。
2
本部は、前項の指針を定めたときは、これを公表しなければならない。
3
脆弱性評価は、起きてはならない最悪の事態を想定した上で、科学的知見に基づき、総合的かつ客観的に行うものとする。
4
脆弱性評価は、国土強靱化基本計画の案に定めようとする国土強靱化に関する施策の分野ごとに行うものとする。
5
脆弱性評価は、国土強靱化に関する施策の分野ごとに投入される人材その他の国土強靱化の推進に必要な資源についても行うものとする。
6
本部は、国土強靱化基本計画の案の作成に当たっては、脆弱性評価の結果の検証を受け、作成手続における透明性を確保しつつ、公共性、客観性、公平性及び合理性を勘案して、実施されるべき国土強靱化に関する施策の優先順位を定め、その重点化を図らなければならない。
7
本部は、国土強靱化基本計画の案を作成しようとするときは、あらかじめ、都道府県、市町村、学識経験を有する者及び国土強靱化に関する施策の推進に関し密接な関係を有する者の意見を聴かなければならない。
8
前各項の規定は、国土強靱化基本計画の変更の案の作成について準用する。
2
本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。
第二十条
本部に、国土強靱化推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、内閣官房長官、国土強靱化担当大臣(内閣総理大臣の命を受けて、国土強靱化に関する施策の総合的かつ計画的な推進に関し内閣総理大臣を助けることをその職務とする国務大臣をいう。)及び国土交通大臣をもって充てる。
2
副本部長は、本部長の職務を助ける。
2
本部員は、本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる。
第二十二条
本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人(独立行政法人通則法
(平成十一年法律第百三号)第二条第一項
に規定する独立行政法人をいう。)及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法
(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項
に規定する地方独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法
(平成十一年法律第九十一号)第四条第十五号
の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
2
本部は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。
第二十四条
本部に係る事項については、内閣法
(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。
第二十六条
政府は、大規模自然災害等への対処に係る事務の総括及び情報の集約に関する機能の強化の在り方その他の国土強靱化の推進を担う組織(本部を除く。)の在り方について、政府の行政改革の基本方針との整合性に配慮して検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (平成二七年九月一一日法律第六六号) 抄
(施行期日)
第一条
この法律は、平成二十八年四月一日から施行する。